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社会保険労務士法人 渡邊人事労務パートナーズ 代表社会保険労務士 渡邊武夫
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税制適格年金だより11月号

日本航空(JAL)の企業年金問題
最近日本航空の経営再建問題が毎日新聞報道されております。ナショナルフラッグの企業経営危機ということで世間の大きな関心を呼んでおりますが、この中でとりわけ同社の企業年金問題(年金額の削減)が取り沙汰されております。
そこで日本航空の企業年金が何故それだけ会社経営に甚大な影響を及ぼしているのか検証してみるとともに、どうして企業年金が経営判断だけで減額出来ないのか法的規制を取りまとめました。さらには日本航空だけではなく、実際には中小企業でも年金債務は切実な問題であることを示しております。

1.日本航空の主なデータ
(1)経営指標
*年間売上1兆9511億円
(2009年3月決算数字)
*営業赤字2000億円
(2010年3月決算見込み)
*会社清算価値
6000億円債務超過
現段階の資本増強政府案3000億円
(2)企業年金(現段階の概算額)
*退職給付債務8000億円
年金受給権者9000人
*年金積立不足3300億円
株価時価総額3200億円を超過
*給付利率4.5%
年金に4.5%の金利を付けて支給

2.日本航空の企業年金問題点
これまでの日本航空の手厚い企業年金制度がいわば同社の病巣の一つとなり健全経営を侵していると言えます。社員福利厚生の観点で企業年金が手厚いことは決して悪いことではなく、また本来取り決められた年金は削減するべきではありません。しかしながら、同社の場合経営バランスを失する程に企業年金が突出しており、更には、国から資本注入される企業としての節度が求められます。

(具体的な問題状況例)
1.退職給付債務8000億円(総資産の38%自己資本の173%に相当)が負債計上されバランスシート上の健全性を損なう原因となっている。
(注)退職給付債務とは、認識時点で発生していると認められる従業員の退職金に係る事業主債務であり、割引計算で現在価値を求める。退職金制度が手厚ければ当然退職給付債務も多
額となる。
2.年金積立が大幅に不足しており、年金不足額は3300億円である(会社の株価時価総額を上回っている状況にある)。
3.年金に給付利率4.5%の金利をつけ支給している。給付利率が高ければ会社の実質支給額は大きく増加し決算へ影響する。


(給付利率毎の実質受取額比較)
退職金1000万円を10年間分割支給した時
の社員受取額計
ア.給付利率0%⇒受取額計1000万円
イ.給付利率2%⇒受取額計1113万円
ウ.給付利率4.5%⇒受取額計1264万円

3.なぜ企業年金は事業主判断だけで
給付削減できないのか(法的規制)

企業年金(退職一時金を含む)はこれまでの判例から賃金の後払いと同視されるケースが多く、労働者保護の観点から事業主の判断だけで勝手に給付削減は出来ないこととされております。

[例外的に給付減額が認められる3要件]
1.給付減額に対し受給権者の3分の2以上の同意がある。
2.経営悪化により減額を行わないと掛金
の継続拠出ができない状況にある。
3.希望者には最低積立基準額(受給権者に対する給付見込額の現価相当額)を一時金として支給すること。

上記要件でも難しい問題があります。まず、「受給権者の3分の2以上同意」要件では、減額を簡単に受け入れる受給権者はいないということです(今回の日本航空でもすでに3分の1以上の反対が出ています)。また、仮に3分の2以上の同意があっても減額に不満な少数従業員が裁判を起こす可能性があることです。
次に、「経営悪化」要件ではどの程度の悪化を示すのか法令で明記されていないことです(NTT企業年金減額事件では年金受給者87%の同意があっても、NTTの黒字決算を理由に厚労省は減額承認を認めずNTTが最高裁に上告中です)。
最後の「希望者に対する最低積立基準額の一時金支給」では多額の一時資金が必要になることも想定されます。ただし給付利率を考えれば一時金を支給しても経営上の負担軽減は大きいと言えます。
いずれにせよ、経営再建を目指す日本航空の企業年金問題では何らかの制度改革と見直しが必至であると思われます。

4.中小企業にも退職金問題が存在する

日本航空事例の様に、上場企業で退職給付債務を本則通り計算すると驚くほどの大きな金額となります。
では、中小企業には退職給付債務は無縁でしょうか。決して無縁では有りません。従業員を雇用し退職金制度が存在する以上退職給付債務は原則存在します。ただバランスシート上には表われず、隠れ債務となっている可能性があります。
確定給付型企業年金の代表格である税制適格年金(廃止期限:平成24年3月)では予定利率5.5%と実勢運用金利が乖離し多額の隠れ債務となっている可能性があります。従業員の退職時に顕在化したときには対応が遅れますので、自社の企業年金制度の見直しと積立不足の早期対策が必要となります。

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