渡邊人事労務パートナー事務所便り9月号をお届けします

社会保険労務士法人 渡邊人事労務パートナーズ 代表社会保険労務士 渡邊武夫
電話番号
改正労働契約法が成立(5年超有期労働契約が無期限労働契約に転換します)

◆5年を超えた反復労働契約にご注意
本年8月3日改正労働契約法が可決成立し、同8月10日から1年以内に本転換制度が施行されます。この法令施行後は、労働契約が5年を超えて反復継続した有期労働契約者から申し出があれば、事業主は無期限の労働契約への転換を義務付けられることとなります。5年の起算点は法令施行後とはいえ、事業主にとり有期労働契約が無期限になることは雇用責任が加重される労働契約の重要な変更であり、留意すべき法令改正といえます。
無期限労働契約への転換を回避するためには、有期労働契約が満了した日と次の有期労働契約初日の間(空白期間)が6ヵ月ある場合は、空白期間前の有期労働契約は通算しないという規定が設けられております。しかしながら、通算期間を一旦途絶させるために6ヵ月間空白期間を設けることはビジネス現場では現実的な方法ではなく、やはり、会社として有期労働契約者の取扱いをどうするか、基本的な対応方針を取り決める必要があると思われます。

◆産業界で異なる法令改正の対応方針
この法令改正は事業主にとり雇用責任を加重させるものですが、産業界では有期労働者の役割と位置づけにより今後の対応方針が異なる模様です。例えば、大手ハンバーガーチェーンは有期労働契約者を店舗売り上げの調整弁と考えており、売り上げが減少すれば有期労働契約者を減らして調整するところが、法令改正によりこれが出来なくなる今後を懸念しております。また、国内に1600人の契約社員を抱える日立製作所は、法令施行後契約社員の契約期間を5年以内にする対策を行う方向です。一方、有期労働者を貴重な戦力として積極的に無期労働者として取り込む企業(例えば、イトーヨーカド「長期間働くパートはやる気があり、安定した雇用の環境整備につながる」、ファミリーマート「経験者は大事な戦力であり無理に辞めてもらうことは考えづらい」)もあり、様々な対応方針となっております。
この法令改定趣旨は、反復継続する有期労働契約の下で突然の雇い止めの不安を解消し、労働者が安心して働き続けることにあります。一方企業には企業なりの経営方針や諸事情があります。このため、あくまでも期限付き労働力を求めるのか(その場合には適切な更改管理が必要です)、無期限労働者として積極的に取り込むことを許容するのか今から方向性を定める必要があります。

◆すぐに無期限に転換になる場合もあります

有期労働契約が5年を超えて無期限転換を求められる場合だけでなく、現在でもすぐに無期限雇用契約を余儀なくされるような以下事例もありますので、参考までに自社の労働契約実態に照合されてみては如何でしょうか。

(すぐに無期限転換になりかねない参考事例)
@この会社はパート・アルバイト有期労働者に多くの業務を委ねており、パート・アルバイトの中には正社員と同様高度な技術を有しているものがおります。
A社長は有期労働契約回数が度重なっても余り頓着していませんが、実際は二桁以上回数で更改している者がおります。
B更改の際も労働条件を改めて説明するでもなく「その契約書にハンコを押しておいてね」で済ませております。
C社長はパート・アルバイトと顔を合わせると「君は良くやってくれている。今後も長く働いてね」と激励しております。

以上@からCまでのことを通して言えることは、このような場合、有期労働契約者には更改の期待権が発生しており、有期労働契約の雇止めができない可能性があることです(これを「雇止め法理」と言います)。今回は判例法理であるこの「雇止め法理」を改正労働契約法で法定化したことで、法的強行性が強まったといえます。そして、この部分は本年8月1日にすでに施行されておりますので、有期労働契約の更改管理が一層重要となります。

◆無期限に転換した契約の取扱い
 では、無期限に転換した契約の労働条件はどうすれば良いのでしょうか。この場合には、従来通りの有期労働契約の内容でも問題ありません。勿論、無期限に転換した時期に合わせて、正社員に準ずる待遇とし、モラール向上を図るという戦略的な人材登用もありますのでここは企業裁量によるところとなります。

高年齢者雇用安定法改正案が成立

◆継続雇用制度の会社は影響を受けます
 貴社の定年年齢規定は次の3通りの内どれに該当するでしょうか。下記A又はBならばご参考程度にお読み下さい。しかし、もし、下記C(継続雇用制度)を採用されているならば、本年8月29日に可決成立し、来年4月1日に施行になる高年齢者雇用安定法改正案の影響を受け、会社規定の見直しが必要となります。

A.定年年齢なし
B.65歳定年
C.継続雇用制度により基準適合者の定年を延長(労使協定の基準を充足する者に限定)

 Cの継続雇用制度(会社の定年年齢(例えば60歳)に一旦達した社員を会社の定年延長基準に照らし合わせ、適合社員だけを更に継続雇用する制度)は、会社にとり使い勝手の良い定年制度であり、企業の83%が採用しております。しかし、来年4月に施行されるこの法律により、労使協定で対象者を選別することができなくなります(つまり特別な場合を除き延長希望者全員を雇用する義務が生まれます)。このため、就業規則の見直しが必要となります。

◆年金支給繰り下げに対応した法令改正です
 雇用義務年齢は、来年4月から61歳、3年後には62歳というやり方で3年毎に1歳ずつ引き上げられ、2025年で65歳となります。なぜこのような雇用義務化が行われるかというと、年金支給繰り下げに対応するためです。来年4月以降60歳に到達する人は、年金(報酬比例部分)の支給が61歳になります。つまり、60歳になり、会社からは退職させられる一方で、年金は61歳まで待たされるとなると、給料なし・年金なしの期間が発生するため、雇用義務年齢を61歳に延長し救済するためのものです。このようにして年金支給繰り下げと雇用義務年齢の引き上げを段階的にかみ合わせた形となります。来年4月に向けた準備が求められます。

派遣・パート・アルバイトの時給に
関する動向


1.派遣時給動向
◆派遣スタッフの平均時給
株式会社リクルートが行った「派遣スタッフ募集時平均時給調査」(2012年6月)によると、三大都市圏における2012年6月度の募集時平均時給は1,480円で、20カ月連続で前年同月比を上回る結果となりました。
◆エリア別にみるとどうか?
首都圏 平均時給1,550円
東海圏 平均時給1,308円
関西圏 平均時給1,326円
      
2.パート・アルバイト時給動向
◆パート・アルバイトの平均時給
また、同社の「パート・アルバイト全国エリア別募集時平均時給調査」(2012年6月)によれば、三大都市圏における2012年6月期の募集時平均時給は950円で、前月比プラス2円、前年同月比ではマイナス2円という結果になりました。
◆エリア別にみるとどうか?
首都圏 平均時給993円
東海圏 平均時給889円
関西圏 平均時給898円

3.最低賃金(参考)
  東京都 時給837円
  愛知県 時給750円
  大阪府 時給786円

当事務所よりひと言

先日家の家具模様換えのため、学生アルバイト2名をお願いいたしました。タンスの置き換えやベッドの分解・移動は力のある若い男手にお願いする算段でした。
来てくれたのは、一人はサッカーの選手(サッカー君と呼びます)と、もう一人はチャラチャラしたネックレスをした若者(ネックレス君と呼びます)の2名でした。二人とも身体が大きいのでこれは心強いと思いましたが、これが大間違いでした。
サッカー君は、こちらのお願いに呼応して率先して身体を動かしてくれますが、ネックレス君は最初にタンスを動かす作業で顔をしかめ、動きを止めて右手をさすり始めました。「どうしたの?」と聞くと、「僕腱鞘炎なんです」・・・(ナヌ?!君は何で今日のバイトに来たのだ・・・)。それを聞いた私の妻が、ネックレス君の手首に絆創膏を貼ったり、包帯を巻いたりしました(人が良いのにも程がある・・・)

結局その日の力仕事は殆どサッカー君と私とで行い、ネックレス君は、重量物運びをしている二人の後をついて来るだけ、移動進路に障害物があれば手の空いている自分が取り除こうという気働き全くなし、今日の作業で自分が役に立とうという思いが見られない状況でした。そのくせ、昼食に振る舞ったお寿司は腱鞘炎もなんのその一番早く平らげました。
ようやく所定の作業が終わり、サッカー君とネックレス君の二人が帰った後で、社会保険労務士として企業人事採用のご相談を受ける私は思わずつぶやきました。「ネックレス君との契約が今日一日だけで救われたけど、彼のような人間を社員として採用した会社はたまらないね」。
これに対し、中学校で講師を勤める妻が教育関係者らしい反応「でも、教育研修をやった結果を見なければ分からないわよ」

本当にそうでしょうか?実際、大企業では長期スパンで社員教育研修スケジュールが組まれる中で、問題社員・劣等社員が適所を得て突然変異的に活躍する社員もいます。しかしながら、日本の大部分の会社である中小企業には、そのような長期社員教育研修スケジュールや活躍まで長期間待つ余裕がないところが殆どでしょう。中小企業にとり、積極的に率先して仕事に取り組む即戦力新人以外は必要ない筈です。つまり、サッカー君を採用するか、ネックレス君を採用するかはまさに企業の死活問題です。

その一方で、会社人事部在籍時の採用面接官の経験から、私自身完璧な人事採用は困難であると実感しております。結果オーライであれば問題ありませんが、不幸にもどうしようもない新人を採用した時の会社の備えがやはり重要です。具体的には、就業規則において、新人見極めの試採用期間を設けること、試採用の結果本採用につながらない可能性もありうることを予め明示すること、本採用拒否の理由を具体的に定めておくことです。皆様の就業規則にこの備えがあるか改めてご確認されることをお勧めします。

PageTop

Copyright(C) Watanabe personnel affairs labor partner All Right Reserved.