渡邊人事労務パートナー事務所便り9月号をお届けします。

社会保険労務士法人 渡邊人事労務パートナーズ 代表社会保険労務士 渡邊武夫
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「つぶれるよ、うち。」

◆高野友梨氏「炎上」
 「不二ビューティ」の高野友梨社長がいまマスコミで「炎上」しております。労働環境の改善を求めてエステ・ユニオンに加入した仙台支店の女性社員に対して、高野社長が急遽仙台を訪れ管理職等総勢18名がいる中で、2時間半にわたり強圧的な主張を展開し、この社員は精神的ショックを受けて出社できない状況が続いているとのことです。
 その時の会話は録音されており、一時ネットでも聞くことができました。高野社長の発言を一部抜粋すると、「労働基準法にぴったりそろったら、(会社は)絶対なりたたない」「つぶれるよ、うち。それで困らない?」「(他の社員に)組合に入られた?正直に言って」と結構過激な内容です。
 エステ・ユニオンによれば、同社は月平均80時間に及ぶ残業とこれに対する残業代の未払い、売り上げ目標未達成の場合の自腹支出、有給・産休取得妨害、研修費の給与天引き等多くの問題点が指摘されております。これに対する高野社長の発言で「炎上」となっております。

◆高野友梨氏の心情
 年齢ばかりでは言えませんが、チャーミングに見えても高野社長は現在66歳です。おそらく、昔型の経営者ウェットマインド(労基法や有給休暇などつべこべ言うな。黙って辛抱すればそのうち良いことがある)の持ち主と思われます。その証拠に今回の件で出した高野社長の声明では、「悩んでは一緒に泣いた、新年会や運動会で盛り上がった、青春の思い出を泣いたり笑ったり・・・」と叙情的な思いが綴られております。しかしながら、現代では、社員が労基法を初めとした法令に基づき事柄を考え、場合によっては在職のまま事業主を訴える極めてドライな労使関係であり、高野社長の感覚にずれがあると思われます。今回の様に長時間に亘り詰問すれば、相手が精神的な損害を受け、出社が叶わなくなるという出方があることは当然読まなければならないことです。ある意味では、みすみす相手の思う所に引きずり込まれたのではないかとも思われます。「不二ビューティ」には適切なアドバイスをする社労士はいないのでしょうか。

◆高野友梨氏の問題発言
 高野社長が本件で発した主な問題発言は、高野社長だけでなく、私達も気をつけなくてはならないことが含まれます。
*「(他の社員に)組合に入られた?正直に言って」・・・労働組合加入は、憲法第28条で定められた労働者の権利であり、否定できません。
*「労働基準法にぴったりそろったら、(会社は)絶対なりたたない」・・・寅さんではありませんが、それを言ったらオシメイヨの発言です。
*「36協定は各店うやむや。知らないもん」・・・本来36協定がなければ1時間たりと、時間外勤務をさせることはできません。全国展開する経営者が公の場で36協定を知らないと発言することはかなりの強心臓です。

人手不足による助成金の変動

◆かつては3年以内既卒者採用だけで100万円!
いまでこそアベノミクス経済対策やオリンピック特需そして少子高齢化による若年層の減少で人手不足と騒がれておりますが、わずか2年前までは新卒・既卒を問わず就職が決まらず、未曾有の就職超氷河期でした。この状況を緩和するための施策として当時の厚労省では、3年以内既卒者を正社員採用した会社には6カ月後に100万円という助成金がありました。当職も多くの事業主様にご案内を行い、実際に受給していただき喜ばれました。実に「美味しい」助成金の一つでしたが、今はありません。と申しますのは、現在の新卒者雇用では、逆に内定者を引き留めるために企業が大わらわの様変わりであり、そのような人手不足の状況では、3年以内既卒者採用助成金は実態にそぐわないものとなったからです。この様に、助成金はその時々の経済環境や労働需給を睨みながら政策的判断により設計されております。

◆今は人材育成と正社員転換助成金に注目
労働マーケットで現在課題とされておりますのは、有期契約労働者のスキルアップと、非正規労働者の正社員化です。これに対応する政策的助成金がキャリアアップ助成金です。
どの会社でも社員のレベルアップは重要課題です。しかし、社外研修機関に出向かせれば研修費用がかかるし、研修の間も賃金を支払わなくてはなりません。また有期契約労働者であれば尚更会社としては教育に躊躇します。これら研修(OffJTと称します)をサポートするのが、キャリアアップ助成金(人材育成コース)です。研修費用は研修時間に応じて10万円〜30万円が支給されます。また、研修期間中、1時間当たり800円(中小企業の場合)の賃金助成金を受けられます。例えば月給18万円の社員の時給換算を約1,125円とすると、賃金の70%以上がカバーされることになります。更には、社内で実務に従事する間(OJTと称します)は1時間当たり700円の賃金助成金が受けられます。例えば、4ヵ月間500時間のOJTであれば35万円の賃金助成金となります。上手く利用して社員のスキルアップに用いることをご提案します。
この他に現在注目すべきものとして、キャリアアップ助成金(正規雇用等転換コース)があります。これは将来が期待できる有期契約労働者を登用し、無期契約に変更する(1名20万円)、あるいは正社員に転換する(1名50万円)ものです。社員のモラルアップになり、会社も助成金の恩恵を受けられるというメリットがあります。ただし、留意すべき点として、社会保険適用事業所(法人等)であれば、支給申請段階で転換対象者の社会保険加入がチェックされますので、社会保険負担を回避したい企業はご注意下さい。

◆不滅型助成金
 当職は長い間事業主の皆様の助成金のお手伝いをさせて頂いておりますが、その存在が不滅と言って良い助成金があります。それは特定就職困難者雇用開発助成金です。特定就職困難者雇用開発助成金は、母子家庭の母、60歳以上の者、障害者(身体・知的・精神)等いわゆる就職弱者を雇用する場合に支給されるものです。支給金額は中小企業の場合で90万円(週30時間以上勤務者)、障害者に対しては障害の内容等で最高240万円となっております。
 国の雇用促進政策として、女性の職場進出、高齢者の労働力化、障害者雇用率の向上が推し進められておりますが、特定就職困難者雇用開発助成金はまさにこの政策をバックアップする助成金としてこれからも不滅と思われます。
 このカテゴリーの変わり種としては、両立支援助成金があります。子育てをする社員の所定労働時間を7時間または8時間から6時間に短縮することで一人目40万円、二人目以降15万円が支給されるものです。この助成金はまさに女性の職場定着を支援するものですが、スタート当初の値付けが100万円であり、人気沸騰したために、70万円に下がり、更に今では40万円になりました。しかしながら、この助成金は今の日本の最重要課題である女性戦力の活用をバックアップするものであり、金額の変動はあるにしても今後も不滅型の助成金といえそうです。

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