渡邊人事労務パートナー事務所便り5月号をお届けします。

社会保険労務士法人 渡邊人事労務パートナーズ 代表社会保険労務士 渡邊武夫
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4月からの社会保険関係の制度改正

◆「協会けんぽの保険料率」の改定
協会けんぽにおける保険料率が、平成23年4月給与天引き分から、全国平均で9.50%(従来は9.34%)に引き上げられています。事業主の皆様は従業員給与のチェックオフ金額をご確認下さい。
保険料率の最も高いのは、北海道、佐賀県の「9.60%」、最も低いのは「長野県」の9.39%となっています。
協会けんぽは都道府県単位保険料率を採用しておりますが、これは地域の医療に対する取り組みを保険料に反映させるために導入されたものであり、長野県は医療先進県といえそうです。

・9.60%:北海道、佐賀県(最も高い)
・9.49%:神奈川県
・9.48%:東京都
・9.45%:埼玉県
・9.44%:茨城県、千葉県
・9.39%:長野県(最も低い)

◆「出産育児一時金制度」の見直し
正常分娩出産は保険対象外となるため一時に多額な費用負担がかかるものです。健康保険ではこれに対し出産育児一時金が支給されており、平成23年度も金額(42万円)に変更はありません。
ただし、被保険者の窓口負担を軽減するために、現行の直接支払制度(医療機関に対し保険者が出産一時金を直接支給する制度)を継続したうえで、小規模な医療機関等などでは「受取代理」(妊婦などが、加入する健康保険組合などに出産育児一時金の請求を行う際、出産する医療機関等にその受け取りを委任すること)が制度化されました。
当事務所便り3月号でもお知らせした通り、厚生労働省では2012年度から高額療養費の窓口立替払いをなくす方向であり、出産育児一時金を含め高額な医療費を一旦医療機関で支払う必要が減少することとなります。

◆在職老齢年金の支給停止基準額の改定
会社員として在職しながら60歳以降老齢年金を受給するときには、年金基本月額と総報酬月額の金額に応じた計算式により受け取る年金額が支給調整(カット)されます。
この4月から在職老齢年金の支給停止の基準額について、「47万円」が「46万円」に改定されました。この金額が低くなることは年金支給調整(カット)幅が広がることとなります。
なお、支給停止の基準額は、賃金の変動などに応じて自動的に改定される仕組みとなっており、平成23年度については、平成22年の名目賃金の下落(マイナス2.0%)により、「47万円」が「46万円」に引き下げられました。




被災者の就労支援・雇用創出と
雇用調整助成金


◆プロジェクト第1段階
東日本大震災により多くの事業所が損壊し被災者の方の雇用が喪失していることが社会問題となっております。この事態を受けて政府が設置した「被災者等 就労支援・雇用創出推進会議」は、被災者の就労支援、雇用創出を促進するため、「『日本はひとつ』しごとプロジェクト」第1段階(フェーズ1)を発表しました。
まずは、復旧事業などによる被災者への就労機会の創出や被災地企業・資財の活用、希望する被災者が被災地以外の地域で就労可能とすることなどを実施する考えです。

◆主な施策内容
(1)ハローワークを活用した被災者向けの求人確保ときめ細かな就職支援
(2)雇用調整助成金制度の拡充
(3)3年以内の既卒者を採用する企業への奨励金(被災地に居住する方を採用した場合120万円を支給(従来は100万円))をはじめとする助成金の拡充
(4)震災被害者への失業手当の特例支給
(5)地域障害者職業センターにおける障害者の雇用継続のための特別相談の実施等

◆雇用調整助成金の拡充
上記(2)の雇用調整助成金(中小企業緊急雇用安定助成金)は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員を一時的に休業などさせた場合に、休業手当相当額の一部(中小企業で原則8割)を助成する制度です。
震災被害に伴う経済上の理由により事業活動が縮小した場合、この雇用調整助成金が利用でき、さらに、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県、長野県、新潟県の9県のうち、災害救助法適用地域にある事業所については、次の(A)〜(C)の通り、通常の雇用調整助成金(中小企業緊急雇用安定助成金)よりも支給要件が緩和されます。
(A)今回の地震に伴う「経済上の理由」により、最近1か月の生産量、売上高などがその直前の1か月、または前年同期と比べ5%以上減少していれば対象となる。
(B)平成23年6月16日までの間については、災害後1か月の生産量、売上高などがその直前の1か月、または前年同期と比べ5%以上減少する見込みである事業所も対象となる。
(C)平成23年6月16日までの間に提出された「計画届」については、事前に届け出たものとして取り扱う。

◆その他の特例適用
なお、「9県の特例対象地域に所在する事業所などと総事業量の3分の1以上の経済的関係(取引関係)がある事業所の事業主」と「計画停電の実施地域に所在し、計画停電により事業活動が縮小した事業主」については、上記の(A)(B)の特例措置が適用され直接震災の被害に遭わなかった事業所も対象となります。ただし、首都圏でリーマショック以来雇用調整助成金(中小企業緊急雇用安定助成金)をすでに利用されておられる事業主の方には利用限度(3年間で300日)が目前となっている場合もあり、利用限度の拡大も必要ではないかと思われます。


個人事業主と「労働組合法における労働者」

◆相次いで出された判決
先日、「労働組合法における労働者」に該当するか否かをめぐる注目すべき逆転判決が相次いで出されましたので、以下にご紹介します。表面上の業務委託契約等に関わらず、当該者が労働者に該当する者とされれば、労働組合法上の権利が発生することから、使用者にとっては注意すべき判決といえます。

◆業務委託契約・出演契約の性質
1つは、「住宅設備のメンテナンス会社と業務委託契約を結ぶ個人事業主」に関するもの、もう1つは「劇場側と出演契約を結ぶ音楽家」に関するものでしたが、最高裁判所は、個人として働く人の権利を重視して、いずれについても「労働者に該当する」との判断を示しました。
いずれの訴訟でも、一審・二審では、「労働組合法における労働者」とは認められていませんでした。

◆「労働組合法における労働者」とは?
一般に、「労働組合法における労働者」とは、賃金・給料等の収入を得て生活する人のことを言います。
そして、「労働組合法における労働者」であると認められれば、憲法で保障する「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」の3つの権利が認められ、非常に大きな意味を持ちます。 
例えば、「団体交渉権」が認められれば、労働組合が使用者と交渉することができ、使用者が正当な理由なく労働組合代表者との交渉を拒んでしまえば、いわゆる「不当労働行為」に該当することとされてしまいます。

◆今後、企業が注意すべき点は?
企業が経費削減等の理由から外注化を進めていることにより、個人事業主が増えている状況において、今回の判決が、上記のような個人事業主と音楽家が「労働組合法における労働者」に該当すると認めたことには、大きな意味を持ちます。
もちろん、裁判となった事件にはそれぞれ異なる背景・経緯がありますが、今後、同様の働き方をしている人、会社と業務委託契約を結んで働いている技術者やドライバーなどが「労働組合法における労働者」と認められる可能性はあると言えます。
今後、企業においては、業務委託契約を結ぶ等する際には、上記の裁判例を参考に、慎重を期する必要があると言えるでしょう。





当事務所よりひと言

東日本大震災で自分が何もできず歯がゆい思いをしているところに、私が会員となっております神奈川県中小企業家同友会と神奈川県社会保険労務士会から義援金のご案内を頂きました。

とても僅かですが、双方に心ばかりの義援金を贈らせていただきました。受け取る側には手間ばかりで申し訳ないとは思いますが、私なりの精一杯の金額を寄付させていただきました。

そこでふと思いましたが、多くの著名人の皆様、例えば野球のイチロー選手の1億円や、中にはソフトバンク孫正義氏の100億円などウルトラな金額を今回の東日本大震災に寄付をされております。頭が下がる思いです。これらの寄付を売名行為等とか揶揄する方もいらっしゃるそうですが私は決してそうは思いません。現下の悲惨な現状において日本人だけでなく世界各国の皆様がそのような余念をもって義援金を出される方はほとんどおらず、せめてもの思いを精一杯示されたものと私は考えております。

昔から「富者の万燈・貧者の一燈」という言葉の解釈では、神仏に対して長者が捧げた多くの燈よりも明日の糧もない貧者がせめてもの思いとして捧げた一燈の方が功徳はあるとされております。しかし、私は富者でも貧者でもせめてもの思いが同じであるならばその多寡は問題ではなく、心の純真さが大切であり真価ではないかと思います。

願わくは今回の多くの方の義援金が、東日本大震災の被害に遭われた方々に最大限に有効に用いられ心の回復の一助になってほしいと思います。

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