渡邊人事労務パートナー事務所便り5月号をお届けします

社会保険労務士法人 渡邊人事労務パートナーズ 代表社会保険労務士 渡邊武夫

今日本は人手不足です

◆ブラック企業が成り立たなくなっています。
先月号では、ブラック企業経営者として有名になったお二方の言語録を記載しました。
*「無理というのは嘘吐きの言葉なんですよ」
 ワタミ社長渡邊美樹氏(テレビ東京カンブリア宮殿)
*「変革しろ。さもなくば死だ」
 ユニクロ社長柳井正氏(2011年 年度方針)

ブラック企業が回り続けられる条件としては、短期間で労働力をぼろぼろになるまで搾取し、結果として労働者が辞めたら新人を補充して同じように酷使するという構図が必要です。つまり、新陳代謝できる労働力の存在がなければ、ブラック企業は成立いたしません。ところが、現在では一旦ブラック企業とされた会社には新人は応募してこなくなります。また、昨今のアベノミクス効果やオリンピック需要等で労働力の需要が多くなり労働者の選択肢も拡大しております。このため、前記ワタミやユニクロでは大きく方針転換を余儀なくされております。

ワタミは本年度中に居酒屋店舗の1割にあたる60店を閉鎖して捻出した人員を他の店舗に振り分けて、慢性的な人手不足を解消させる方針です。外食産業では景気回復で深刻な人手不足ですが、特にワタミは人手が足りず店舗閉鎖にまで至っております。また、新たに同社内に設置した有識者会議では、労働時間を正しく申告しないよう会社からの指示を受けていたと根の深い問題指摘を受けております。

一方、ユニクロも人手不足で180度の大転換を余儀なくされております。本年4月11日の記者会見で、柳井社長は販売員1万6千人を正社員に登用すると発表いたしました。同社新卒社員の3年以内離職率ピークは50%と飛び抜けているにもかかわらず強気であった柳井社長ですが、とうとう人手不足という現実に方針転換を迫られました。 「少子高齢化により人材が枯渇する。時給千円で人が集まる時代は終わりを告げた」と大量で安価な労働力をリプレースして回す経営が困難になったことを認めております。柳井社長はピーター・F・ドラッカーの信奉者としてつとに知られておりますが、ドラッカーは「企業は社会の公器である」と述べております。ブラック企業が社会の公器ではないことに今更ながら気付かれたのではないでしょうか。

◆アルバイトの時給が上昇しております
 当事務所があります西新宿7丁目の吉野家のアルバイト募集にふと目をやりますと、時給
1,133円〜とあり、都心の真中にあるとはいえすでに千円台を上回っていることに驚きました。新聞報道でも現在アルバイト・パートの時給は上昇傾向(前年同月比0.6%アップ)が続いているそうです。この理由は、人手不足に悩む外食産業が募集をかけた結果、求人件数が49.9%増加していることに加えて、企業も人材確保のため横睨みしながら賃金を引き上げていること、また、アルバイターの方でも条件の良い方に流れていくことから時給上昇が継続しております。
 三大都市圏(首都圏・東海・関西)の今年3月の募集平均時給では、飲食店936円、調理師914円、コンビニ881円、販売927円ですが、首都圏だけでみれば更に高い水準であると思われます。

◆人手不足倒産もあります
 当たり前の話ですが、普通の企業は人がいて初めて仕事ができるわけです。人手がなければ仕事が出来ず、この結果最悪倒産にいたる場合もあります。岡山の建設会社では公共事業拡大で仕事はあるものの、労務費急騰のため数十人の下請け社員を集められなくなり受注ができず急速に資金繰りが行き詰まり倒産に至ったという情報があります。また、倒産には至らなくとも、前記ワタミの様に人手不足から既存店舗を閉鎖せざるを得ないとか、新規設備投資で出店を行おうにも、スタッフが集まらないなど、深刻な人手不足となっております。
 人手不足解消策として、高齢者・外国人・女性の労働力活用がよく指摘され、行政としてそれぞれ対応策も検討されております。この中で興味深いのは、建設業に女性技能労働者を活用することです(5年以内に今の2倍の18万人目標)。労基法で婦女子労働保護法令を頭にたたき込んだ当職としてはまさに隔世の感があります。

◆中小企業の賃金改善は覚悟の上?
帝国データバンクが発表した「2014年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果によると、賃金改善が「ある(見込みを含む)」と回答した割合は、意外にも大企業よりも中小企業のほうが高く、47.6%でした。しかし、中小企業経営者の心中は複雑と思われます。賃金改善による業績への影響は必至であり、出来れば手を付けたくない、しかしながら、賃金を改善しなければ働き手が維持できない、あるいは逃げられてしまい、会社自体が回らない最も恐ろしい事態を回避したいという覚悟の上の判断もあると思われます。

当事務所よりひと言

韓国珍島沖でのフェリー転覆事故で、多数の死者行方不明者が出ているとの報道が連日行われております。本当に痛ましく見るに忍びない大惨事です。そして被災者ご家族のストレートな、ある意味過激な悲しみの表現には、韓国の文化や民族性が感じられます。
 当職が損害保険会社で船舶保険の営業を担当しておりました頃、日本の船会社所有の数千トンクラスの貨物船が、全員韓国人の船員とともに突然行方不明となり、所在がつかめなくなってしまいました。マレーシア航空機と同じように全くのミッシング(失踪)でした。韓国人船員十数人の家族が韓国にある船会社事務所に集まり、連日連夜会社の社長(日本人)を取り囲み責任を問い糾弾したと聞いております。これに耐えかねた様に社長は突然死してしまいました。突然死する以外途のない厳しい追及だったのでしょう。また、今回のフェリーの事故では修学旅行参加の学校の教頭が自殺しております。
 一方、日本人の悲しみ方ではたとえどんなに辛くとも心を抑えた慎み深さを心がけていると思います。夏目漱石の随筆で、子供を亡くした母親が先生である漱石に挨拶に来たときの話があります。母親は実に冷静に亡くなるまでの顛末を漱石に話し、時には笑顔すら浮かべていたので、漱石はいぶかりましたが、ふと母親の手許に目をやると、ハンカチを固く握りしめた手がぶるぶると震えていることに気付きました。実は手では号泣していたのです。東日本大震災で身内を亡くした方が抑制された口調で悲しさや寂しさを表したときのほうが、抑えられた分だけこちらの共感する悲しさが増幅されてきます。日本人の感覚にはそのようなところがあるのでしょう。
 大切な身内を亡くしたときの悲しみの深さはどの国でも全く同じです。そして、悲しみをどう表現するかは、長い間の文化や民族性にかかわることであり、善悪や良否は全くありません。大切なことは文化や民族性の違いを理解するところにあると思います。韓国では葬儀の時にプロの「泣き女」が雇われて大声で泣き叫ぶそうですが、悲しみを出来るだけ大きく表現することがあちらでは大切なこととされ、改めて彼我の文化や民族性の違いを感じます。

社会保険労務士法人 渡邊人事労務パートナーズ 代表社会保険労務士 渡邊武夫

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