従業員の飲酒運転と懲戒
◆私行上の飲酒運転でも懲戒解雇・退職金不支給の判決
京都市の中学校の元教頭(52歳)が2010年4月に自宅で飲酒した後に自家用車で外出し、さらに車内でも飲酒し、物損事故(車に追突)を起こしました。
その後、この元教頭は懲戒免職処分を受け、「退職金全額不支給処分」となりましたが、不支給処分の取消しを求めて訴訟を提起しました。一審(京都地裁)では、原告側が勝訴(全額不支給処分は取消し)となりました。
この訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は、原告側勝訴となった上記の一審判決を取り消し、元教頭の請求を棄却しました(平成24年8月24日判決)。
請求棄却の理由として、大阪高裁の裁判長は、「飲酒運転の内容は極めて悪質・危険であり、これに対する非難は大きく、公教育全体に対する信頼を失墜させた」とし、さらに「学校教育に貢献して勤務状況が良好だったことを考えたとしても、処分に裁量権の乱用があったとはいえない」と判断しました。
◆飲酒運転に対する懲戒判断
私行上の行動は本来会社制約から自由となりますが、飲酒運転や犯罪行為等社会秩序を乱す行為を従業員が行った場合には、たとえ私行上とはいえ会社は従業員に対し懲戒を行うことが出来るとされております。ただし、どのような行為に対しどのような懲戒が行われるかにつては、画一的なスケールはありません。最高裁判所の判断は「犯罪行為の性質、態様、情状、会社の業種、規模、労働者の会社における職種、地位などを総合勘案する」とされております。
つまり、飲酒運転で言えば、飲酒運転の度合い(酒酔い運転・酒気帯び運転の程度)、会社業種(公務員か民間会社か、また、民間会社であれば業種とその規模)、事故の程度(人身事故、物損事故)、地位(管理職、無役職者)により判断されることとなります。
本件裁判で懲戒解雇に加え、退職金まで不支給に至った一番の判断要素は、物損事故とはいえ、本人が学校の教頭という高い社会的地位の信頼性を損ねたということです。
◆飲酒運転に対する従業員への制裁
飲酒運転に対する社会的制裁が強く求められる契機となったのが、平成18年の福岡市職員による飲酒追突事故で、子供3人が博多湾に投げ出され死亡した事件です。投げ出された子供を助けるために母親が何度も水中に潜り探そうとしたという新聞記事は何とも言えない痛ましい思いが残りました。飲酒運転はしてはならないことを大きな教訓として残した事件です。
この事件を契機として、飲酒運転に対する従業員への制裁が一挙に厳しくなり、特に公務員の場合、多くの地方自治体で飲酒運転による懲戒解雇が規定されました。
私の前職(損害保険会社)の話で恐縮ですが、自動車保険販売事業ということもあり、飲酒運転罰則の厳格化を行い、飲酒運転を行えば懲戒解雇となる就業規則を私自身が作成いたしました。願わくは自分の手がけた就業規則で解雇者を出したくないと思いましたが(特にゴルフプレー終了後の飲酒を懸念しました)、結果として幸い杞憂に終わりました。しかしながら、世の中にはお酒の誘惑に勝てず、ついつい飲酒運転をしてしまうことがあります。これから忘年会等お酒の時期が多くなります。飲酒運転に対し単に厳罰化を行うだけでなく、日常から会社・組織全体での飲酒運転撲滅の意識徹底が必要となります。
◆飲酒運転撲滅に対し会社が設けるべき規定
私行上とはいえ従業員が飲酒運転を行うことは許されないことであり、事故の内容や企業知名度によっては会社名まで報道され、飲酒運転を行った本人だけでなく、会社も社会的名誉が失墜することがあります。ましてや、会社業務中に飲酒運転を行ったならば、社員への管理監督欠如や使用者責任までが問われ会社の致命傷ともなりかねません。飲酒運転に対し適正に従業員制裁を行うためには就業規則の整備等が必要です。
まず会社が最初に取り組むべき事は、飲酒運転は絶対行ってはならないという社内秩序の確立です。社内秩序を定着させるためにはなんと言ってもトップのリーダシップが求められます。従業員の耳にタコができているならばタコをそぎ落としてでも改めて認識を植え込まなくてはなりません。
次に就業規則の定めを整備しますが、最初に服務規程を整備します。服務規程には従業員が守るべき会社のルールやマナー、服務心得が規定されますが、ここで酒気を帯びた勤務や飲酒運転を禁止する条項を定めます。服務規程違反は懲戒事由ともなります。
最後に飲酒運転に対する懲戒規定を設けます。従業員を懲戒するためには、懲戒規定で具体的に懲戒事由(飲酒運転)と懲戒処分(解雇)を明定しなければ懲戒することが出来ません。従業員を懲戒するには明確な手続きと規定が必要となります。飲酒運転に対する懲戒解雇の最近裁判では、解雇が有効・無効に分かれる判決が見られますが、解雇有効とするためには就業規則で飲酒運転の解雇規定の存在が前提となります。
◆マイカー通勤には自動車保険チェックが必要
会社によっては従業員にマイカー通勤を認めているところもあると思います。マイカーを利用した出退勤や会社業務にマイカーを使用している場合には使用者責任(民法715条)が追求されることがあります。出退勤途上で従業員が飲酒運転を行ったときに従業員に損害賠償資力がなければ矛先は会社に向けられることとなります。特に人身事故の場合は多額な損害賠償金となる可能性があり、会社にとっては経営を揺るがせかねない事態となります。
マイカー通勤を認めている会社では、自動車保険加入(特に対人無制限)と、自動車保険証の提示を就業規則に設けることで、不測の賠償責任から免れることとなります。また、あってはならないことですが、仮に飲酒運転の場合でも他の免責事項に該当しなければ被害者保護のため対人・対物の保険金を受けることは可能であり飲酒運転にかかる企業リスクを回避できます。貴社の就業規則のご点検をお勧めします。
所長より一言
11月7日の立冬から、来年2月の立春まで長い冬の始まりです。今年の秋は不真面目な学生の如く、遅刻したあげく早退した様でとても短い秋に感じられました。寒くなりますので体調にご留意ください。
◆私行上の飲酒運転でも懲戒解雇・退職金不支給の判決
京都市の中学校の元教頭(52歳)が2010年4月に自宅で飲酒した後に自家用車で外出し、さらに車内でも飲酒し、物損事故(車に追突)を起こしました。
その後、この元教頭は懲戒免職処分を受け、「退職金全額不支給処分」となりましたが、不支給処分の取消しを求めて訴訟を提起しました。一審(京都地裁)では、原告側が勝訴(全額不支給処分は取消し)となりました。
この訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は、原告側勝訴となった上記の一審判決を取り消し、元教頭の請求を棄却しました(平成24年8月24日判決)。
請求棄却の理由として、大阪高裁の裁判長は、「飲酒運転の内容は極めて悪質・危険であり、これに対する非難は大きく、公教育全体に対する信頼を失墜させた」とし、さらに「学校教育に貢献して勤務状況が良好だったことを考えたとしても、処分に裁量権の乱用があったとはいえない」と判断しました。
◆飲酒運転に対する懲戒判断
私行上の行動は本来会社制約から自由となりますが、飲酒運転や犯罪行為等社会秩序を乱す行為を従業員が行った場合には、たとえ私行上とはいえ会社は従業員に対し懲戒を行うことが出来るとされております。ただし、どのような行為に対しどのような懲戒が行われるかにつては、画一的なスケールはありません。最高裁判所の判断は「犯罪行為の性質、態様、情状、会社の業種、規模、労働者の会社における職種、地位などを総合勘案する」とされております。
つまり、飲酒運転で言えば、飲酒運転の度合い(酒酔い運転・酒気帯び運転の程度)、会社業種(公務員か民間会社か、また、民間会社であれば業種とその規模)、事故の程度(人身事故、物損事故)、地位(管理職、無役職者)により判断されることとなります。
本件裁判で懲戒解雇に加え、退職金まで不支給に至った一番の判断要素は、物損事故とはいえ、本人が学校の教頭という高い社会的地位の信頼性を損ねたということです。
◆飲酒運転に対する従業員への制裁
飲酒運転に対する社会的制裁が強く求められる契機となったのが、平成18年の福岡市職員による飲酒追突事故で、子供3人が博多湾に投げ出され死亡した事件です。投げ出された子供を助けるために母親が何度も水中に潜り探そうとしたという新聞記事は何とも言えない痛ましい思いが残りました。飲酒運転はしてはならないことを大きな教訓として残した事件です。
この事件を契機として、飲酒運転に対する従業員への制裁が一挙に厳しくなり、特に公務員の場合、多くの地方自治体で飲酒運転による懲戒解雇が規定されました。
私の前職(損害保険会社)の話で恐縮ですが、自動車保険販売事業ということもあり、飲酒運転罰則の厳格化を行い、飲酒運転を行えば懲戒解雇となる就業規則を私自身が作成いたしました。願わくは自分の手がけた就業規則で解雇者を出したくないと思いましたが(特にゴルフプレー終了後の飲酒を懸念しました)、結果として幸い杞憂に終わりました。しかしながら、世の中にはお酒の誘惑に勝てず、ついつい飲酒運転をしてしまうことがあります。これから忘年会等お酒の時期が多くなります。飲酒運転に対し単に厳罰化を行うだけでなく、日常から会社・組織全体での飲酒運転撲滅の意識徹底が必要となります。
◆飲酒運転撲滅に対し会社が設けるべき規定
私行上とはいえ従業員が飲酒運転を行うことは許されないことであり、事故の内容や企業知名度によっては会社名まで報道され、飲酒運転を行った本人だけでなく、会社も社会的名誉が失墜することがあります。ましてや、会社業務中に飲酒運転を行ったならば、社員への管理監督欠如や使用者責任までが問われ会社の致命傷ともなりかねません。飲酒運転に対し適正に従業員制裁を行うためには就業規則の整備等が必要です。
まず会社が最初に取り組むべき事は、飲酒運転は絶対行ってはならないという社内秩序の確立です。社内秩序を定着させるためにはなんと言ってもトップのリーダシップが求められます。従業員の耳にタコができているならばタコをそぎ落としてでも改めて認識を植え込まなくてはなりません。
次に就業規則の定めを整備しますが、最初に服務規程を整備します。服務規程には従業員が守るべき会社のルールやマナー、服務心得が規定されますが、ここで酒気を帯びた勤務や飲酒運転を禁止する条項を定めます。服務規程違反は懲戒事由ともなります。
最後に飲酒運転に対する懲戒規定を設けます。従業員を懲戒するためには、懲戒規定で具体的に懲戒事由(飲酒運転)と懲戒処分(解雇)を明定しなければ懲戒することが出来ません。従業員を懲戒するには明確な手続きと規定が必要となります。飲酒運転に対する懲戒解雇の最近裁判では、解雇が有効・無効に分かれる判決が見られますが、解雇有効とするためには就業規則で飲酒運転の解雇規定の存在が前提となります。
◆マイカー通勤には自動車保険チェックが必要
会社によっては従業員にマイカー通勤を認めているところもあると思います。マイカーを利用した出退勤や会社業務にマイカーを使用している場合には使用者責任(民法715条)が追求されることがあります。出退勤途上で従業員が飲酒運転を行ったときに従業員に損害賠償資力がなければ矛先は会社に向けられることとなります。特に人身事故の場合は多額な損害賠償金となる可能性があり、会社にとっては経営を揺るがせかねない事態となります。
マイカー通勤を認めている会社では、自動車保険加入(特に対人無制限)と、自動車保険証の提示を就業規則に設けることで、不測の賠償責任から免れることとなります。また、あってはならないことですが、仮に飲酒運転の場合でも他の免責事項に該当しなければ被害者保護のため対人・対物の保険金を受けることは可能であり飲酒運転にかかる企業リスクを回避できます。貴社の就業規則のご点検をお勧めします。
所長より一言
11月7日の立冬から、来年2月の立春まで長い冬の始まりです。今年の秋は不真面目な学生の如く、遅刻したあげく早退した様でとても短い秋に感じられました。寒くなりますので体調にご留意ください。