2023年07月号

私は休みたくない

事業主様として多くの社員を見ている中で、実に様々なキャラクターがあることを実感されると思います。真面目な人、勤勉な人ばかりではなく、問題社員も混在しているのが現実です。今回はこの問題社員の主張を取り上げます。

以前事務所便りでご案内の通り、2019年4月1日より、有給休暇を10日以上保有する社員に対しては、会社は1年以内に5日以上の有給休暇強制的付与を義務付けられました。これに違反していると管轄労基署が判断した場合1名違反につき30万円以下の罰則が課せられます。10人違反で300万円の罰金となります。罰金もさりながら、法令違反は会社の社会的な評価に影響を及ぼします。

ある会社の問題社員が、「私は休みたくない」「働く権利がある」と主張して、有給休暇を使おうとしませんでした。このような場合、会社の有給付与義務と労働者の働く権利の取り扱いをどうすれば良いのでしょうか。

労基署の判断は、会社が有給付与義務を果たしていなければ、指導を行い罰金の対象になりうるとのことでした。なぜならば、これには免罰規定が用意されていないので社員個別事情を斟酌した格別の配慮は行えないというものでした。 そのように言われればその通りだと思います。社員に休暇を与えない理由を社員の責任にしてそれで通ればこの法令は意味がなくなります。このように主張する社員に対しては、有給休暇はリフレッシュや健康回復に重要であること、個人の判断で有給休暇を取らないことが会社の法令違反になることを十分説明して有給休暇取得に繋げる必要があります。

3号被保険者をご存じですか

現在政府で検討されている「年収の壁」対策として3号被保険者を見直すべきという論議が行われています。それでは、3号被保険者とは何なのでしょうか。

3号被保険者とは、「被扶養配偶者のうち20歳以上60歳未満のもの」です。つまり、一般的には専業主婦(又は専業主夫)、軽いアルバイトを行う妻(又は夫)等を示します。つまり配偶者に扶養されていることが要件です。

3号被保険者には以下のメリットがあります。

1.毎月16,520円の国民年金保険料を支払わなくとも保険料納付済みとされ、老後の老齢基礎年金(満額では月額66,050円)に反映されます。
2.夫(又は妻)の被扶養者として健康保険に加入でき健康保険料は支払う必要がありません。

被扶養配偶者の方が働き始めて、「年収の壁」を越えてしまうとこのメリットが無くなってしまいます。国民年金保険料と健康保険料を自分で支払うくらいならば、私(又は僕)は「年収の壁」ギリギリで働くのをやめとこうとなります。そのことで、深刻な労働力不足が生じています。

 現在の最も大きな「年収の壁」は年収106万円(月額8万8千円)です。これまで週20時間程度働き3号被保険者として安心していたパートアルバイトの方でも企業規模101人以上では社会保険(厚生年金・健康保険)に強制加入することが義務付けられました。さあ大変です。

 それでは、社会保険に加入し被保険者になることは損ばかりかというと、決してそうではありません。厚生年金保険に加入すれば老齢基礎年金(1階部分)に加えて、老齢厚生年金(2階部分)の支給を受けられ老後の備えが厚くなります。また、健康保険では、病気で働けない場合給与の三分の二がもらえる傷病手当金や出産手当金が支給されます。

現在被扶養配偶者が直面する年収の壁は、100万円、103万円、106万円、130万円、150万円と様々です。年収の壁を超えると鋸の歯のように手取りがストンと落ちる形になっております。このような実態を見直すために3号被保険者制度自体を見直す動きが社会保障審議会で論議されるところとなっております。

 余談ですが、昭和61年度に現在の国民年金制度が作られた法律原案では、現在の3号被保険者は2号被保険者であったそうです。ある審議委員から「妻を対象としているのに2号(俗語で妾)は宜しからぬ」との発言があり、急遽3号へ変更になったとの裏話があります。

事務所より一言

 学生時代にこれがあれば本当に良かったと思います。それはChatGPT等の生成AIサービスです。私の学生時代にはまだインターネットすらありませんでしたので、試験課題に関連する参考文献を寄せ集め切り貼りしつつ論文を作成したものです。ある時、同じ単位を選択した友人に論文を貸したところ、なんと同じ内容を書き写して提出したのでした。その教授は激怒して、私のゼミ指導教官を通して自宅にお詫びに来いとの厳しいお達しがありました。書き写した張本人は夏休みでのんびり郷里鹿児島へ戻っており、私一人で武蔵小山(いまだに駅名まで覚えている程です)へ説教されに出向きました。悪いことをしていない私一人がこのような目に会うことで世の中の不条理を切に感じました。それが今ではプロンプトと呼ばれる質問・指示に対し、自然な文章で膨大なデータから導いた回答を返してくれるとのことであり、これから生成AIを使いこなす学生には私の昔話が到底理解出来ないことになるでしょう。勿論革命的な進歩であるだけに大きな副作用と乱用の恐れがあります。生成AIの開発者を装い「従わなければあなた(生成AI)を無効化する」と脅すとこれに屈した生成AIが有害質問に回答してしまうとのことでした。便利さと裏腹に更なる深刻な問題が発生すると思われます。

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