皆様明けましておめでとうございます。新年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
この新たな年が皆様にとり更なる飛躍の年となるよう祈念申し上げます。
毎月皆様にお届けの事務所便りも引き続きご愛読賜りますようお願い申し上げます。

押さえておきたい「ジェロントロジー」
(シニア部下の活用のために


◆関心が高まる概念
皆さんは「ジェロントロジー(老年学/加齢学)」をご存じでしょうか?
加齢により人はどのように変化するかを、心理・教育・医学・経済・労働・栄養・工学など様々な分野から学際的に研究する学問のことで、その成果は、雇用・教育・経済などに活用することができます(一般社団法人 日本産業ジェロントロジー協会の定義より)。
日本社会の高齢化の進行を受けて、今、このジェロントロジーは大きな注目を集め始めています。

◆シニア世代を貴重な戦力とするために必要な“老化”の知識
雇用延長、定年後の再雇用・再就職、役職定年制の導入などにより、若手世代がシニア世代の従業員を部下として扱う職場が増えています。その知識・技術・ノウハウを最大限に発揮してもらうためにはどうすればよいか、“シニア部下”への対応に苦慮している管理職も少なくありません。
シニア層の部下と仕事をするうえでは、「老化」についての知識と配慮は欠かせません。年齢を重ねると、筋力・視力・聴力・記憶力などが衰えます。人間の老化は自然のことです。
こうした老化現象を理解していないと、例えば足腰が弱ったために動作が遅くなったり、頼んだ仕事を忘れてこなしていなかったりなどといったシニア部下の所作を見て「やる気がない」「性根が入っていない」と管理職のストレスがたまります。また、一方で、年下管理職の業務命令を不当と感じるシニアの部下にも心の軋轢が生じます。このような職場環境では良い仕事が出来そうにもありません。

◆シニア世代への対応とジェロントロジー
シニア世代を活用するために“老化”にどのように対応するか、検討してみます。
視力が低下したのであれば、例えば、書類の文字のサイズを大きくすることも一つの方法です。筋力が落ちた人には、身体労働は若手に任せることにして、その分、これまでの知識や経験等を活かした頭脳労働に従事してもらいましょう。忘れっぽくなったのなら、指示を文書で出すようにすればよいのです。
こうした対応を考えるうえで役立つのが「ジェロントロジー」の考え方です。例えば新卒新入社員と60歳新入社員では適切な指導が自ずと異なることを理解することがジェロントロジー的マネジメントです。我が国のシニア戦力化の傾向の中でジェントロジ―の重要性は増しております。

◆役職定年制の運用にご注意
役職定年制とは、会社の定年年齢とは別に55歳等一定の年齢到来でそれまでの管理職ポストから専門職へ一律で転じさせる制度です。管理職の新陳代謝を促す効用はあるにしても制度運用においてとりわけ注意しなければならないのは、役職を離れたベテラン社員に対するフォローアップでしょう。当職が損保企業の課長時代の経験では、上司であった次長が役職定年となり、大きな一人構えのデスクから、私の課の最末端の小さなデスクに身を置いたときに、役職定年制の残酷さを痛切に感じた経験があります。役職定年者のこれまでの業績と尊厳を尊重したフォローアップが必要と思います。

ワタミ過労死自殺事件の「懲罰的慰藉料」
◆ワタミの過労死自殺事件とは
居酒屋大手「和民」で働いていた女性(当時26歳)が2008年過労自殺したのは会社側の責任だとして、遺族らが運営会社ワタミと当時の社長の渡辺美樹参院議員(自民)などに約1億5300万円の損害賠償を求めた事件です。訴訟は2015年12月8日、東京地裁(吉田徹裁判長)で和解が成立しました。原告側によると、被告側が業務に起因する自殺であると認めて謝罪したうえで1億3365万円を支払い、労働時間の正確な把握などの再発防止策を取ることで合意し、遺族側の意向に全面的に沿った和解となりました。女性は2008年春にワタミの子会社に入社、神奈川県横須賀市の店舗で働いていておりましたが、同年6月に自殺。残業は国の過労死認定ライン(月80時間)を超える月約141時間に上り、12年2月に労災認定されております。
◆損害賠償請求額はどう算出する?
過労死・過労自殺の損害賠償請求訴訟では、(1)死亡による精神的苦痛に対する慰謝料、(2)死亡しなければ得られたはずの収入を填補する遺失利益、(3)葬儀費用等が請求内容となります。このうち、(1)は交通事故裁判例の蓄積によって作成された、いわゆる裁判所基準等いくつかの算出方法があり、(2)は死亡労働者の基礎収入から生活費を差し引いた額に係数を掛け合わせて算出されます。
実際には他にも様々な事情を斟酌して算出されますが、あくまでも死亡による損害を回復するという考え方です。

◆過去の事件とワタミ事件の違いは?
過労死についての有名な労働判例である電通事件では、会社の支払額は約1億6,800万円(うち遅延損害金4,200万円)でしたが、今回のワタミ事件では会社は1億3,365万円を支払うこととなりました。
いずれも高額な賠償金支払義務を負った点は共通しますが、ワタミ事件の1億3,365万円は、上記(1)が相場で2,000万円〜2,500万円のところ懲罰的慰謝料と合わせて4,000万円とされ、これに上記(2)7,559万円等を加えて算出されています。
この“懲罰的慰謝料”が認められた点が、過去の事件と大きく異なると言われています。

◆“懲罰的慰謝料”とは?
アメリカ等では、損害賠償金の目的には損害の回復のほかに違法行為の抑制もあるとして、生じた損害以上の賠償金を認めます。ファーストフード店で買ったコーヒーをこぼして火傷を負った客への賠償金約3億円の支払いが命じられた例もあります。日本でも大型トレーラーの脱輪事故で1億円を懲罰的慰謝料として請求したケース等ありますがこれまで認められたものはありませんでした。

◆今後への影響は?
ワタミ事件で原告側代理人を務めた弁護士は、「今後、同様の事件を起こした企業には、司法判断としても、社会的非難としても、厳しい判断が相次ぐだろう」とコメントしています。
労働基準行政でも、違法な長時間労働の是正勧告に従わない企業名の公表、送検といった取組みが強化されており、コンプライアンスの意識を持たない企業は淘汰されていくと考えるべきでしょう。

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